来 歴


金色の枝で


くらやみの中でも
夜っぴてふくらんで行くライラックの蕾
見えない花壇の下でも
ひろがり続けるヒヤシンスの白い球根
それなら私の心を土壌にして
どんな風景が育とうとしているのか

日暮れになると
遠ざかって行く空をつきつけては
私の出発をせきたてる山鳩
それでも私は
重たい腰を冷たい庭の土にすえたまま
遥かなとり入れの季節を
まぶたの裏側に描き続ける
あれでもない
これでもないと
今も私は
私の絵の具を選ることに執している
まだ見たこともないその土地に
申し分なく熟れいている私自身と
いちばん美しい太陽とを描くために
山鳩が羽を休ませる
いい枝ぶりの
アカシアの木を一本描き添えるために
まぶたを開けば
干からびた冬の庭であっても
優しくなぞれば
てのひらに痛い棘をたてる
赤茶けた薔薇の枯れ茎であっても
やがて明日が来れば生き返る
苦しげな山鳩のことばが
空の向こうに消えたあとから
まぶしい光に追いすがって
羽ばたこうとする
もう一羽の山鳩が
金色の枝で羽をととのえている


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